思い出に残る紅茶5
 
『ルーマニア兵がくれた紅茶』 ガテ山内

  あれは1990年の3月のこと。その数ヶ月前にベルリンの壁が崩れるなど、一連の東欧革命が起こった直後でした。

当時、大学生だった僕は、初めての海外旅行に話題沸騰していた東ヨーロッパを当然のように選び、東西ドイツ、チェコスロバキア、ハンガリーとやってきて、たどり着いたのがルーマニア。

首都ブカレストはチャウシェスク政権の崩壊の混乱が残り、戦闘の生々しい跡が街のあちこちで見られました。


ブカレストの街をうろうろ歩いていると、国会前や放送局などの施設の周囲に兵隊がいます。

彼らにカメラを向けて「OK?」ときくと、ニッコリ笑ってポーズをとってくれて、意外に気さくなんです。

下手したら銃弾が飛んでくるかも……と緊張していたのに、兵隊にはまるで緊張感がない。


放送局の裏の路地みたいなところに入ると、若い兵隊たちが椅子に座ってヒマそうに焚き火してました。(やる気あんのか?)

求めに応じてパスポートを見せると、「ワオ、日本から?」と言って4,5人から握手ぜめ。

それで、好奇心旺盛な彼らと片言の英語でトークしてたんですが、突然「よぉ、銃撃ってみろよ」と言われました。


「えぇ?」と驚いていると、一人が長さ1mくらいの自動小銃を僕に持たせて「ほれ、あそこ」と壁をアゴで指します。

 「マジですか?」

びびる僕に構わず、兵隊が銃の安全装置を外します。

軍隊が外国旅行者に銃を撃たせるなんて聞いたことないけど、ここは政権崩壊したルーマニア、いわば常識のエアポケット、あり得るかも。

しばらく迷いましたが、本当に撃ったら音が響き渡って、大変なことになりそうな気がして、結局やめました。

 
それから「じゃあ、お茶でも飲んでけよ」ということになって、どこからか運ばれてきた紅茶をもらいました。 

まだ心臓がドキドキして味なんてよく分からなかったけれど、温かい紅茶はとりあえず有難かったです。

 ……………………………………………………………………………
 ■ルーマニアは「Romania」と書くように、気質はイタリア人みたいなラテン系なんだそうです。

当時はまだ外国人に慣れてなくて、本当に素朴で、あまり悪いことはできそうもない人が多かったです。今はどうなのかなぁ。(ガテ)


「思い出に残る紅茶」トップへ